アスパラガスの写真を、地下鉄の吊り広告に見つけた。
青々としたおいしそうなアスパラガスである。
横に文字が書いてある。
「アスパラガスがサラダに並ぶようになったら、納期限です。」
・・・納期限??
あまりにも違和感のある言葉に驚き、
理由を求めてポスターのあちこちを眺める。
理由はすぐに分かり、思わず微笑んだ。
「自動車税の納付は5月末までに」
この広告のすごいところは、
これからアスパラガスを見るたびに、自動車税を思い起こすことだ。
納期限という違和感のある言葉を理解するために頭を使ったぶん、
記憶が焼き付けられてしまった。
世の中の広告戦略は、かくも進化している。
手を変え品を変え、我々の意思決定に影のように忍び寄っている。
こんな例もある。
Webを活用した受注生産方式でコンピュータ市場に革命を起こしたDell。
実は、受注生産ではなく、見込生産をしている。
秘密は、注文を受け付けるホームページにある。
全てのパーツを自由に選べるようでいて、
実は特定の組み合わせを選ぶように巧みに誘導されているのだ。
日本人は、松竹梅で言えば竹が好きだ。
そのあたりの心理を、たくみに組み込んでいるのだ。
こういった工夫は、広告戦略やマーケティング戦略として今も研究が進められている。
しかし、人間の心理に忍び寄る広告戦略は、
企業に対してより効果的な誘導ツールを提供する一方で、
一般の人たちの自由な意思決定過程を歪めていることも事実だ。
企業の言いなりとして生きるのもまた人生ではあるが、
自分が本当に何が必要か、見極めながら生きていかなければ、
いつのまにか自分にとって有益な価値判断ができなくなってしまう
せちがらい世の中になっているということだ。
その高級車が欲しいのか、そのブランドが欲しいのか、・・・
常に自問自答することが、ひとつの防御策である。